人魚の眠る家

脳死は人の死か？という問題はよく話題になりますし、多くの人が一度は考えたことがある問題だと思いますが、結局はっきりとは答えが出せない人がほとんどでしょう。

そんな中、この問題に真正面から向き合った作品があります。それが東野圭吾の「人魚の眠る家」です。

この「人魚の眠る家」は離婚を間近に控えた夫婦の娘がプールでおぼれて脳死状態に陥ってしまうという話です。

「人魚の眠る家」は全6章からなる小説でまず第1章では播磨薫子の娘・瑞穂がプールで溺れて、脳死状態に陥ります。播磨和昌、薫子夫婦は臓器提供を行うか否かの選択を迫られます。

当初は臓器提供する方向で話を進めていましたが、ある一瞬の出来事で薫子は瑞穂の死を受け入れないという決意をします。

第2章からは薫子による瑞穂の介護が始まります。死を受け入れない決意をした薫子は瑞穂に自発呼吸をさせるため最先端の技術を提供しようとします。

第3章では星野という技術者の力を借りて機械の力で瑞穂を運動させます。

第4章はこれまでの話とは変わり、臓器提供を待つある少女を支援する団体の話です。

第5章はこの小説の中でも一番の読みどころで、印象深い章となります。
瑞穂の事故から2年半以上が経ち、当初はいつ死んでしまってもおかしくない状況でしたが最新技術の力を借りて眠っているようにしか見えない状態にまでなっていました。

しかし周りの人たちの瑞穂に対する態度は変わりつつありました。周りの人から気を使われることに嫌気がさしていた薫子。薫子の息子・生人の言動をきっかけにして薫子はある行動に出ます。

最終章となる第6章では薫子の最終的な判断が描かれています。

「人魚の眠る家」は東野圭吾さんの作品ですがミステリー要素は全くなく、脳死状態の娘の死を絶対に受け入れない母親の数年間の物語となっています。

見どころ１・反対の立場の少女

第4章はこれまでとは関係のない話が差し込まれます。関係のない話がなぜ差し込まれるのかと思うかもしれませんがこの話があることで作品自体の深みが増しています。

第4章の大部分はある少女が海外で臓器移植の手術を受けるため、募金を募る団体の話です。

この少女は瑞穂とは反対の立場にある人物と言えます。それまでは脳死を人の死と捉えることに悲観的な話で、読者も脳死を人の死と捉えるのはどうなのかとなっていたところでこの4章の話が差し込まれるので読者はまた迷うことなります。

そしてこの後の5章ではさらの読者は迷い、深く考えさせられることになります。

見どころ２・瑞穂の誕生日会

眠っているようにしか見えない状態になった瑞穂ですが、医師は改善したわけではなく、管理しやすくなっただけという見解を出します。

つまり医師によれば、どれだけ見た目が良くなっていても、脳死状態になれば改善する見込みはゼロということです。

順調に良くなっているように見えていましたが、物語の後半になり読者に残酷な事実が突き付けられます。

しかし、死んでいることを認めない薫子は瑞穂をさらに生きた状態に近づけようと星野の力を借りますが、周りの人間からは徐々に狂っているように見られるようになってしまいます。

そのことに薄々気づいていた薫子は瑞穂の誕生日会でついにある行動に出ますが、ここからの数ページにわたる薫子の魂の叫びと行動は涙が出るほど苦しく、切ない話が続きます。

医師の立場からすれば、脳死状態から改善することはない。

しかしもしあなたが薫子の立場だとしたら、それでも脳死を人の死と割り切ることができるでしょうか。

映画「人魚の眠る家」

映画「人魚の眠る家」は11月16日に公開されます。薫子は篠原涼子、和昌は西島秀俊、星野は坂口健太郎、瑞穂の主治医・進藤は田中哲司が演じています。

ここからネタバレになります・・・

ラストの話

瑞穂の誕生日会での出来事以降、薫子は星野の力を借りることを辞め、瑞穂と二人で静かに暮らしていくことを決めました。

二人きりの生活を送っていたある日、薫子の夢に瑞穂が現れ、その夢の中で瑞穂は薫子にこれまでの感謝を告げると消えてしまいました。

この夢の内容により、薫子は瑞穂は旅立ってしまったことを悟り、ある決心をします。

それは瑞穂の脳死を認め、臓器提供することでした。