「ひとつむぎの手」
「ひとつむぎの手」は知念実希人の最新作で先月9月に発売されました。
今回の作品は知念実希人の特徴ともいえる病院が舞台の作品です。この作品は帯でラスト30頁でかならず泣けるといった宣伝がなされていることからわかるように感動的な作品となっていました。
感動系ミステリーということでしたがミステリーの要素はかなり薄めで、医師たちの葛藤、そして医師として大切なものは何かについてを描いた作品になっていました。
とにかく結末だけが知りたいあなたは一番下を見てください。
あらすじ
まずはこの作品のあらすじを紹介します。
この作品の舞台となる病院は知念実希人の以前の作品でも登場した純正医大付属病院でした。そして主人公はこの病院の心臓外科に勤務する平良祐介です。
この作品の中では心臓外科は他の科に比べ非常に忙しい科らしく、その忙しさゆえに次々と他の科へと医師が流れていく状況にありました。
祐介も非常に忙しい毎日を送っていたものの、ある思いからどうしても立派な心臓外科医になりたいという夢を持っており、厳しい勤務に耐えていました。
そんな時、祐介は心臓外科医の医局長である赤石から一度に3人もの研修医の担当医になることを勧められます。
そしてこの3人のうち2人を心臓外科医局に入局させることができれば祐介の希望を叶えるという提案を受けます。
実は祐介には出向の時期が迫っておりこの出向先によって心臓外科医になれるかなれないかがかかっていました。
祐介の希望通り病院に出向されれば心臓外科医への道が開かれますが、もし希望が叶わなければ長年の夢だった心臓外科医への道が閉ざされてしまいます。
どうしても心臓外科医になりたい祐介は赤石の提案を受け入れることにしました。
3人の研修医にどうにか入局してもらおうとして、頭をひねる祐介ですが空回りしてしまい、徐々に3人の研修医との関係は険悪に・・・。
果たして祐介は3人の研修医を入局させることができるのでしょうか。そして祐介は心臓外科医となることができるのでしょうか。
あの医師がまた登場
「ひとつむぎの手」は以前も登場した病院が舞台であるため、以前登場した医師も再びこの作品で登場していました。それが循環器内科の諏訪野です。
諏訪野は以前の作品では主人公の同級生でしたが今回は祐介の後輩として登場しました。祐介と諏訪野は大学時代から知り合いで祐介の相談相手として度々登場しました。
諏訪野は非常に情報通で祐介にたびたび情報を提供する情報役として重要な役割を果たしています。
素晴らしき医師
当初、下手な行動により祐介と研修医との関係は険悪になりますが、医師として本当に大事なのは何かを知っている祐介の数々の行動に、3人の研修医は本当は祐介は素晴らしい医師であることを知り、尊敬するようになります。
一方、祐介は自身の行動は当たり前のことをしているだけだと思っているので、ここが祐介の凄いところです。
第3章で涙
この作品の個人的な見どころは第3章です。
この章は感動的です。
小児心臓外科医を目指す、研修医の一人宇佐美は祐介とともに心臓に病を持つ少女の担当につくことになります。この少女は医師に対しあまり心を開いておらず、冷たい態度をとるのですが、宇佐美は非常に親身になって少女に接します。
実は宇佐美にはある過去があり、それが原因で宇佐美は少女に対して親身になりすぎてしまいます。
そのことを不安に感じた祐介はどうにか宇佐美に医師としての大切なことを伝えようとするのですが、宇佐美と祐介の思いのぶつかり合いには心が熱くなりました。
そして最後に祐介がとった行動は号泣必死です。
ラストの話
祐介は元から心臓外科の無い病院に出向することが決まっていました。
そのことを知った祐介は絶望し、研修の最終日、3人の研修医には心臓外科医になるべきではないと忠告します。
しかし、3人の研修医は皆心臓外科医局への入局を決めたので、祐介は驚きます。
その後、祐介は自分がライバルである針谷の技術に及ばないことを悟ります。
さらに、医局長・赤石の言葉により、心臓外科医になる夢は針谷に託し、自らはまた別の病院で自分の特性を生かした医師として働く決心します。
そしてラスト、研修医が心臓外科医局への入局を決めた理由を祐介は知り、病院を去って行きました。
祐介は本当に素晴らしい医師ですので、ラストに長年の努力が報われなかったので残念な気持ちもありますが、自分の跡を針谷と研修医たちに託し病院を去っていく祐介の姿にはきっと誰もが感動の涙を流すことでしょう。